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『将軍家重の深謀-意次伝』第一章七節

  • 執筆者の写真: 佐是 恒淳
    佐是 恒淳
  • 2022年4月25日
  • 読了時間: 2分

更新日:2022年5月25日

 第一章七節「辰年を悔やむ」では、家重の将軍辞任が描かれます。家重は五十歳になっていよいよ右大臣に昇進しました。京都から勅使を迎えためでたい祝儀が終り、その深夜に江戸では大火が起こり、三日続けて次々と大火災が起きます。家重は、よりによって晴れの日に禍事に見舞われた己のめでたからざる業を気に病み、将軍辞任を決めたのでした。

 さらに小姓の時代から寄り添ってくれた大岡忠光が歿し、いよいよ家重の身辺が淋しくなりました。そんな折、倫子から歌を贈られ、穏やかな詠み振りの紙背に倫子の温かい心遣いを感じ、慰められました。

 夜、一人、御小座敷で物思いにふけり、忠光を悼むとき、それまで静かにしていた野鵐が一声、闇に向かって銀鈴の音を鳴きました。


 家重の心の内をさりげない筆致で淡彩のように描きたかったのですが、読者の皆様の御眼識には、どうお感じになられたでしょうか?少し気になります。



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第一章六節「月夜に耳澄ます」では、田沼意次と弟意誠(おきのぶ)の政治談議が語られます。意次は御側御用取次、弟意誠は一橋家家老。互いの立場から情報交換は有用でした。


 意誠は、意次が評定所の正式要員となった人事の意味を尋ね、将軍主導の幕政を行うため側職の意次が表職の枢要を兼務する構想を知らされます。将軍家重の意向とその目指すところを知って、意誠は高度の政治判断が可能になったことでしょう。


 また、意誠が翌宝暦十年辰年に災厄が起きるという巷間の噂を意次に知らせました。民心や世上の噂は意次の心得ておくべきことだったのです。


 さらに、田安家と一橋家の成立ちと立場が語られます。どの話題も、その後の展開の重要な布石であり、二人の軽妙な語り口は読者にほっとしていただけるよう筆致を工夫しました。夜鳴く野鵐(のじこ)の鳴音を聴き分ける大名趣味は、直接、ストーリー展開に関わりませんが、江戸趣味を感ずる閑話になると思って書いてみました。

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